手形割引の現在の一般的な会計処理は、次のとおりです。
(借)現金預金 ××× (貸)受取手形×××
手形売却損×××
借方の手形売却損が、従来は、支払割引料でした。
手形売却損は、資産の売却損を意味する科目、支払割引料は利息を意味する科目といってよいでしょう。
このような違いを考えると、やはり、手形の割引取引そのものの性格について、もう少し深く考える必要があるかもしれません。
まずは、法的な視点です。
手形割引は、法的には、手形債権の譲渡と考えるのが一般的なようです。
厳密な法律の話は、私の手には負えませんが、資産を売却したというのが、法律的な見方ということで間違いはないようです。
ただ、現実的には、手形割引後に不渡等の特別な事情が生じた場合には、無条件で買い戻さなければならないという特別な条件がついているケースがむしろ一般的なようです。
つまり、手形の売却であるには違いないのですが、ちょっと条件のついた売却というあたりが、手形割引の法的な性格ということでしょう。
「買戻条件付の譲渡」というのが一般的な手形割引の法的な性格とみてよいのではないでしょうか。
ただ、会計は、常に法的な視点のみにたって会計処理を行っている訳ではありません。
例えば、リース取引などは、法的には、賃貸借取引でありながらも、これを売買取引と同様に会計処理を行うことがありました。
これは、法的な側面ではなく、経済的な実態を考えたうえでのことなのでしょう。
それでは、手形割引を法的にではなく、経済的に眺めた場合には、どのように考えるのが適切なのでしょうか?
手形割引には、当事者が二人います。
企業と銀行です。
まず、銀行はどう考えているでしょうか。
これは割引料の計算をどのように行うのかということでかなりの程度に答えがでそうです。
割引料の計算は、単純にいうと、手形の残りの期間に利率をかけて計算されます。
その利率はというと、「手形の振出人」に応じて異なるのではなく、「実際に手形割引を行う企業」ごとに異なっています。
割引料の基本的な取り方は、借入金の利息と同じなのです。
つまり、割引を行う金融機関は、紛れもなく、割引料の「全額」を利息と考えているのです。
それでは、企業はどうでしょうか。
不要となった固定資産を売却するように、資産を売却すると考えているのでしょうか。
これは必ずしもそうではないでしょう。
資金はないけど、期日のある手形がある。これを資金化しよう。
これに尽きると思います。
つまり、あくまでも資金を手にすることが目的なのです。
その意味では、手形割引が、法的には、資産の売却と考えられたとしても、やはり経済的な実質は資金の借入に近いと考えられます。
このように手形割引は、実際には、両当事者がいずれもその実態を、資金の貸し借りだと認識していることになります(なお、現状では、銀行の側は、金融説に基づいた会計処理を行っています)。
しかし、法的にみた場合に手形を譲渡していることもまた事実です。
(借)現金預金 ××× (貸)受取手形×××
支払割引料×××
かつてのような処理を行えば、一つの仕訳のなかに、資産を譲渡した(貸方・受取手形)ということと、利息を支払った(借方・支払割引料)という全く別の要素が混在することになります。
そもそも一つ一つをとりあげればそれほど不合理ではないのに、何故、一つの仕訳として考えると明らかな矛盾が生ずるのでしょうか。
かといって、現状の手形売却損では、本当は金利ではないのかとの疑念が残ります。
つまり、いずれの処理をとるにせよ、すっきりとはいかないのです。
何故すっきりといかないのか?。
次回のテーマです(長大作ですな←いや〜、それほどでも)。
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