2005年12月29日

手形割引の会計処理(1)

いわゆる新基準の導入から幾ばくかの時を経て、いまだにしっくりと来ない会計処理の一つに「手形割引の会計処理」があります。
新旧の処理を並べてみましょう。

(従来)
(借)現金預金 ××× (貸)受取手形×××
   支払割引料×××

(新しい処理)
(借)現金預金 ××× (借)受取手形×××
   手形売却損×××

会計処理としては、「支払割引料」が「手形売却損」に変わったことになります。
支払割引料(金利)であれば期間配分を要する(前払費用がでてくる)けれども、手形売却損(資産の売却損)であれば、基本的に、期間配分は不要ということになるでしょう。

はじめは、「ああ、そうなんだ。会計処理が変ったんだ。」というだけでしたが、いろいろみていくとなんだかよけいわからなくなってしまいました。
ただ、最近になって少し整理できたことがありますので、そのことも含めて、やや、細かい話ではありますが、書き留めておきたいと思います。

新しい会計処理のネタ元は、「実務指針」です。
一般的なテキストの記述も実務指針に負うところが多いのでしょう。
日商の許容勘定科目表でも手形売却損は、メイン科目となっているようです。
ただ、全経(全国経理学校協会)の1級の出題をみますと模範解答が支払割引料になっていたりします。
このような違いはいったい何処から生じたのでしょうか?
はじめの課題は、「手形売却損」と「支払割引料」のどちらが適切なのか?
ここからスタートです(って、まだ、はじまらないのねん)。

手形割引の会計処理(2)へ
posted by 講師 at 01:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 手形割引の会計処理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

手形割引の会計処理(2)

手形割引とは、他人から受け取った手形(手形債権)を銀行等に持ち込んで、現金化することをいいます。
手形には、期日(満期)がありますので、銀行は、ただでは換金してくれません。
割引料と呼ばれる手数料(のようなもの)をとります。
割引料は、手形の満期までの期間に応じて、利率をかけて算出されます。
この場合の利率は、その手形割引を行う者ごとに異なりますので、銀行は、この割引料を純粋な利息としてとっているといってよいでしょう。

さてさて、この手形割引がいったいどういう取引なのかについては、二つの考え方があるようです。
一つは、手形(手形債権)を銀行に売ったとする考え方です。
便宜上、「売買説」と呼んでおきましょう。
もう一つは、銀行から手形を担保にして資金を借りたという考え方です。
こちらは、「金融説」と呼んでおきます。

おおまかには、法律的(形式的)な立場からは、売買説が正しいとされる場合が多いようです。
ただし、経済的(実質的)には、金融説が妥当するといってもよいでしょう。
つまりは、結構、微妙です。

微妙な話はひとまずおいておいて、「売買説」及び「金融説」の会計処理を示しておきましょう。
額面100円の手形を90円で割引いた例です。

売買説:
(借)現金預金 90 (貸)受取手形100
   手形売却損10

金融説:
(借)現金預金 90 (貸)借入金100
   支払利息 10
または、
(借)現金預金 90 (貸)借入金90

金融説における支払利息は、経過勘定項目ということになりますので、決算を経れば、金融説の二つの処理の結果は、一緒になります。

手形割引の会計処理(3)へ
posted by 講師 at 02:31| Comment(0) | TrackBack(1) | 手形割引の会計処理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

手形割引の会計処理(3)

手形割引についての基本的な考え方には、「売買説」と「金融説」とがあります。
「売買説」は、手形割引を手形の売却と考え、「金融説」は、手形割引を(手形を担保にした)資金の借り入れと考えます。
両説に基づく会計処理は次のとおりです。

売買説:
(借)現金預金 90 (貸)受取手形100
   手形売却損10

金融説:
(借)現金預金 90 (貸)借 入 金100
   支払利息 10


これに会計処理の変更を重ねてみましょう。

変更前:
(借)現金預金 90 (貸)受取手形100
   支払割引料10

変更後:
(借)現金預金 90 (貸)受取手形100
   手形売却損10

変更後の会計処理は、「売買説」による会計処理と同じです。
ややわかりにくいのは、むしろ変更前の会計処理かもしれません。
貸方の受取手形は、受取手形という手形債権(資産)の減少を意味しています。
支払割引料は、利息の性格を有するものと考えた勘定科目といってよいでしょう。
つまり、次のような感じになります。

貸方・受取手形 →「売買説」(売ってなくなった)
借方・支払割引料→「金融説」(利息を払った)

一つの取引の中で、考え方に矛盾があった訳です。
これを一つの考え方(「売買説」)で統一しようというのが、新しい(今の)会計処理といってよいでしょう。

手形割引の会計処理の変更を手形割引をどのように考えるかという点からみてきました。
ただ、手形割引の法的性格等の手形割引そのものについて何かが変ったという訳ではありません。
変ったのは、あくまでも「会計」の側の話です。
それではいったい何が変ったのでしょうか?

次回以降は、変ったと考えられる「会計」の側の事を考えてみたいと思います。

手形割引の会計処理(4)へ
posted by 講師 at 03:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 手形割引の会計処理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

手形割引の会計処理(4)

手形割引をどのように考えるかについては、これを手形の譲渡とする考え方(売買説)と資金の借入とする考え方(金融説)とがあります。
従来の手形割引の会計処理は、いわば売買説と金融説の折衷であった訳ですが、新しい会計処理は、売買説で貫かれています。
もっとも、手形割引に対する法的な考え方や経済的な見方に変化があった訳ではありません。
変ったとすれば、それは、あくまでも会計の側なのです。

手形割引の会計処理に関係を有する会計基準には、金融商品に係る会計基準(金融商品会計基準)があります。
金融商品会計基準では、金融資産について、権利(の支配)が他に移転した場合に、金融資産の消滅(貸方・金融資産)を認識すべきこととされています。

受取手形は、商品を売った代金をよこせという権利です。
売掛金との違いは、それが手形という仕組みにのっかっていることといってよいでしょう。
手形を割り引いて(銀行に譲渡して)、お金を受け取ってしまえば、もちろんそれ以上、お金をよこせという権利はありませんから、権利は他に(銀行)に移転しているといってよいでのしょう。
金融資産の消滅の認識を行う必要がある事になります。
つまりは、貸方・受取手形(資産の減)という仕訳をきる必要があるという訳です。

ただし、この処理については、必ずしも従来から大きく変った訳ではありません。
従来も、貸方・受取手形という処理は行っていたのです。
従来は、偶発債務の処理との関係で、貸方・受取手形としない処理(評価勘定法)があったにすぎません。
貸借対照表においても受取手形の金額に割引手形の金額が含まれることはありませんでした。
つまり、貸方・受取手形は、金融商品会計基準が導入されたからそうなったというのではなく、以前からそうだった訳です。

以前と変ったと考えられるのは、やはり、借方・手形売却損です。

では、本当に手形売却損という勘定科目は適切なのでしょうか?

支払割引料では不適切なのでしょうか?

それともどちらでもよいのでしょうか?

謎は深まるばかりです(って、ホントか)

つづく。

手形割引の会計処理(5)へ
posted by 講師 at 04:22| Comment(0) | TrackBack(1) | 手形割引の会計処理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

手形割引の会計処理(5)

手形割引の現在の一般的な会計処理は、次のとおりです。

(借)現金預金 ××× (貸)受取手形×××
   手形売却損×××

借方の手形売却損が、従来は、支払割引料でした。
手形売却損は、資産の売却損を意味する科目、支払割引料は利息を意味する科目といってよいでしょう。
このような違いを考えると、やはり、手形の割引取引そのものの性格について、もう少し深く考える必要があるかもしれません。

まずは、法的な視点です。
手形割引は、法的には、手形債権の譲渡と考えるのが一般的なようです。
厳密な法律の話は、私の手には負えませんが、資産を売却したというのが、法律的な見方ということで間違いはないようです。
ただ、現実的には、手形割引後に不渡等の特別な事情が生じた場合には、無条件で買い戻さなければならないという特別な条件がついているケースがむしろ一般的なようです。
つまり、手形の売却であるには違いないのですが、ちょっと条件のついた売却というあたりが、手形割引の法的な性格ということでしょう。
「買戻条件付の譲渡」というのが一般的な手形割引の法的な性格とみてよいのではないでしょうか。

ただ、会計は、常に法的な視点のみにたって会計処理を行っている訳ではありません。
例えば、リース取引などは、法的には、賃貸借取引でありながらも、これを売買取引と同様に会計処理を行うことがありました。
これは、法的な側面ではなく、経済的な実態を考えたうえでのことなのでしょう。
それでは、手形割引を法的にではなく、経済的に眺めた場合には、どのように考えるのが適切なのでしょうか?

手形割引には、当事者が二人います。
企業と銀行です。
まず、銀行はどう考えているでしょうか。
これは割引料の計算をどのように行うのかということでかなりの程度に答えがでそうです。
割引料の計算は、単純にいうと、手形の残りの期間に利率をかけて計算されます。
その利率はというと、「手形の振出人」に応じて異なるのではなく、「実際に手形割引を行う企業」ごとに異なっています。
割引料の基本的な取り方は、借入金の利息と同じなのです。
つまり、割引を行う金融機関は、紛れもなく、割引料の「全額」を利息と考えているのです。

それでは、企業はどうでしょうか。
不要となった固定資産を売却するように、資産を売却すると考えているのでしょうか。
これは必ずしもそうではないでしょう。
資金はないけど、期日のある手形がある。これを資金化しよう。
これに尽きると思います。
つまり、あくまでも資金を手にすることが目的なのです。
その意味では、手形割引が、法的には、資産の売却と考えられたとしても、やはり経済的な実質は資金の借入に近いと考えられます。

このように手形割引は、実際には、両当事者がいずれもその実態を、資金の貸し借りだと認識していることになります(なお、現状では、銀行の側は、金融説に基づいた会計処理を行っています)。

しかし、法的にみた場合に手形を譲渡していることもまた事実です。

(借)現金預金 ××× (貸)受取手形×××
   支払割引料×××

かつてのような処理を行えば、一つの仕訳のなかに、資産を譲渡した(貸方・受取手形)ということと、利息を支払った(借方・支払割引料)という全く別の要素が混在することになります。
そもそも一つ一つをとりあげればそれほど不合理ではないのに、何故、一つの仕訳として考えると明らかな矛盾が生ずるのでしょうか。
かといって、現状の手形売却損では、本当は金利ではないのかとの疑念が残ります。
つまり、いずれの処理をとるにせよ、すっきりとはいかないのです。
何故すっきりといかないのか?。
次回のテーマです(長大作ですな←いや〜、それほどでも)。

手形割引の会計処理(6)へ
posted by 講師 at 05:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 手形割引の会計処理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

手形割引の会計処理(6)

手形割引は、本当に資産の譲渡なんでしょうか?

同様に資産の売却取引といっても「有形固定資産や有価証券の売却取引」と「手形の売却取引」とでは大きな違いがあります。
それは、売却益がでる場合があるかどうかです。
有形固定資産や有価証券を売却した場合には、固定資産売却益や有価証券売却益が生じることがありました。
手形の売却(手形割引)の場合はどうでしょうか?
手形売却益という勘定科目は、聞いたことがありません。
これはたまたまなのでしょうか。
手形売却益が生ずることは、考えられないのでしょうか?

結論的には、手形売却益が生じることはありません。
しかし、必ず損をする(損がでる)売却?
何かおかしくないでしょうか。
おかしいとすれば、その原因はどこにあるのでしょうか?

その原因は、受取手形の帳簿価額にあります。
資産の売却損益は、「売却代金−帳簿価額」で求められます。
帳簿価額100円の資産を120円で売却したなら、120−100で、20が売却益です。

帳簿価額<売却代金……売却益
帳簿価額>売却代金……売却損

という関係があります。
売却損が常にでるということは、売却代金が小さすぎるか、帳簿価額が大きすぎることを意味しているのでしょう。
売却代金が小さすぎるという訳ではなさそうです。
不適切に小さいのであれば、企業が取引をすること自体が不合理ということになってしまいます。
そう、帳簿価額が大きすぎるのです。

どうやら、手形割引時の貸方・受取手形の金額に問題がありそうです。
この額は、当初の売上(売掛金の回収)時から何ら変りがありません。
つまりは、当初の取引、

(借)受取手形××× (貸)売  上×××

この取引金額そのものに問題がありそうだということになります。
次回は、この取引について考えてみたいと思います。

手形割引の会計処理(7)へ
posted by 講師 at 06:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 手形割引の会計処理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

手形割引の会計処理(7)

手形割引の会計処理がなんとなくしっくりとこないのは、手形割引の取引(の会計処理)に問題があるからではなく、当初の取引(または仕訳処理)に問題があるからです。
問題があるといっても、現状では、それは一般的に行われている処理です。
ですから、これからの話は、現状では、必ずしも行われていない理論的な処理ということになります。
この点を十分、踏まえておいてください。

ただ、税理士試験でいっても試験的に出題の可能性がない訳でもなく(最重要項目という訳ではありませんが)、たとえば、平成8年度 第一問 問1は、このような問題意識のもとに作成されたと考えられる出題です(半分は、没問になった可能性が高いですが)。

結論的なことを最初にいっておくと、売上に利息は含まない方が理論的です。
例えば、現金正価(現金での販売価額)が100円、掛け(手形でも考え方は同じです)での販売価額が120円という場合の処理を考えてみましょう。
掛けによる場合は、2月後を期日とし、1月後に決算をむかえた例で考えてみましょう。
現金での販売の場合には、全く問題はありません。
現金100 売上100
でいい訳です。
問題は、掛けの場合です。

(現在の一般的な処理)
販売時:(借)売 掛 金120 (貸)売  上120

決算時:処理なし

決済時:(借)現  金120 (貸)売 掛 金120

(理論的な処理)
販売時:(借)売 掛 金100 (貸)売  上100

決算時:(借)売 掛 金 10 (貸)受取利息 10

決済時:(借)現  金120 (貸)売 掛 金110
                  受取利息 10

経験的には、この処理は、かなりわかりにくいです。
それは、売った金額120円で売上をたてるというのが簿記の初歩の学習時から当然のごとく行ってきたことに由来すると思います。
この売上に対応する売掛金(受取手形)の金額も当然120円ということなります。

次回は、やや横道にそれる感はありますが、もう既にくねくねしておりますので、売上は120か(利息込)、100か(利息抜)について、今一度、考えてみようと思います。

手形割引の会計処理(8)へ
posted by 講師 at 07:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 手形割引の会計処理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

手形割引の会計処理(8)

手形割引時の基本的な会計処理は、次のとおりです。

(借)現金預金 100 (貸)受取手形120
   手形売却損120

貸方の受取手形は、手形の額面金額であり、その面金額には、利息部分が含まれています。
当初の取引(借方・受取手形)が120であるからです。
そもそも当初の取引段階で、売上の金額(と受取手形や売掛金の金額)に利息部分は含まれるべきなのでしょうか?

利息は、資金の出張手当のようなもので、拘束を受ける側(資金の出し手)が期間(時間)に応じて受け取るものです。
貸付金にしろ、預金にしろ、資金を直ちに手にすることなく、拘束を受ける(相手は自由にできる)ことで受け取る報酬が利息です。
その意味では、売掛金の場合にも全く同様のことがいえるのではないでしょうか。

掛取引であれば、売り手が、その期間に応じて受けるべきものでしょう。
お金の出張手当としての「利息」と商品を売った「代金」の性格は異なっており、その取扱いも理論的には異なるべきでしょう。
その間に決算をはさめば、「利息」は、期間配分もすべきなのです。

現金正価100円、2月後の手形決済120円という条件の販売を行い、1月後に決算をむかえ、直後に手形を割引いたという例で考えてみましょう。

販売時:(借)受取手形100 (貸)売  上100

1月後に決算:(借)受取手形10 (貸)受取利息10

直後に売却=割引:(借)現金110 (貸)受取手形110

そう、手形売却損は、出てこないのです。
当初の手形売上の取引の段階で、理論的に正しい処理を行っていれば、手形売却損は出てこないのです。
手形売却損は、出てこない?

本当はちと違います。

次回は、どこがちと違うのかと、何故、我国では、理論的ではない処理が一般的なのかを考えたいと思います。

それで、長かった手形割引の会計処理の前半を終わりにしたいと思います(ぜ、前半って、あんたそんな無茶な)。

手形割引の会計処理(9)へ
posted by 講師 at 08:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 手形割引の会計処理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

手形割引の会計処理(9)

手形割引は、法的には、資産の売却と考えられ、会計処理も資産の売却を行ったかのごとくに行います。
ただ、当初の手形取引(受取手形××× 売上×××)の金額から金利部分が除かれていないと、手形割引時の受取手形は、理論値よりも大きくなり、その分、手形売却損も大きくなってしまいます。
では、理論的には正しい受取手形の金額はというと、いわゆる償却原価法を適用した場合の帳簿価額、すなわち、償却原価であるべきでしょう。

現金正価100円、手形売価120円、手形期間は2月、1月後に決算、2月後に決済という例で考えてみましょう。

販売時:(借)受取手形100 (貸)売  上100

決算時:(借)受取手形 10 (貸)受取利息 10

決済時:(借)現金預金110 (貸)受取手形110
                  受取利息 10

決算時の受取利息は、受取手形100に対するもので、決済時は、(100+10)=110に対するものですから、本来は、一定額ずつ(定額法)ではなく、(+10)も加味して配分する方(利息法、利回法)が合理的です(でも面倒です)。

また、決算時の受取手形110は、仮に利息法を採用したとしても、決算時の時価という訳ではありません。
あくまでも当初の金利の状態が続いたと考えて計算されたものです。
その間に金利の水準が変れば、受取手形の時価も変動します。
金利水準があがれば、受取手形の時価は下がるでしょうし、逆に金利水準が下がれば、受取手形の時価は上がるはずです(金利が10%で100円の手形は、金利が20%になると100円より安くなる筈です)。

本来は、償却原価と時価との差額が売却「損益」になる筈です。
つまり、一般的な会計処理を行った場合の手形売却損には、「本来の売却損益」と「手形割引時から満期までの期間の利息部分」とが混じっているのです。

日商検定では、手形売却損が主たる科目とされ、全経では、模範解答が、支払割引料とされるある種の混乱が生ずる原因は、そもそもの取引(ないしは会計処理)が理論的には正しい姿ではないからなのでしょう。

手形割引の会計処理(10)へ
posted by 講師 at 09:49| Comment(1) | TrackBack(0) | 手形割引の会計処理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

手形割引の会計処理(10)

我国では、売上の金額を、相手との取引金額で計上するのが一般的といってよいでしょう。
たとえ、そこに金利の要素が入っていたとしても、これを区別しないのです。
もちろん相手のいる取引で、その相手との取引金額で売上を計上するのですから、その金額は、はっきりしています。
その金額をそのまま売上にするのですから、その意味で確実だとはいえるでしょう。
これは大きなメリットです。

ただ、取引の金額からできるかぎり利息の部分を分別することは、理論的には、当然ともいってよいと思います。
世界標準は、むしろこちらに近いようです。
これをできる限り行おうとするのか、むしろ、いや取引金額でいいじゃんとするのかは、利息(それは、貨幣の時間に対する報酬でした)をどの程度重視するのかにかかっているようにも思います。
そしてそれは、貨幣(資本と呼んだ方がいいかもしれません)をどの程度重視するのかと同じといってよいのかもしれません。
おそらくは、日本では、根っこの部分で、利息ないしは貨幣(資本)が軽視されているのでしょうか。
取引金額(額面)を中心とした取引の慣行、そして会計処理は、日本に特有なものといってよいようです。
利息をより重視するならば、取引の段階や会計処理の段階でこれを区別するという方向に話は進む筈でしょう。

金融商品に関する実務指針では、「金利が重要な場合は区別しろ」といっていますが、これは理論的には、区別すべきでも、これまでの取引慣行や会計慣行をすぐに変えることが難しいことを同時にあらわしているといってよいかもしれません。

手形割引の会計処理、特に、借方科目(手形売却損)に注目してみてきました。
現行の当初の会計処理(利息を含んだ受取手形)を前提にした場合には、手形売却損が、必ずしも全面的な合理性を有する訳ではありません。
かといって支払割引料が適切ともいえません。
どうやっても不合理なのです。
合理的な手形割引の会計処理が本当の意味で形成されるには、当初の取引慣行や会計慣行があるべき姿に変わるまで時の経過を待つ必要があるといえるのかもしれません。

手形割引の会計処理(完)
posted by 講師 at 10:01| Comment(2) | TrackBack(0) | 手形割引の会計処理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする