貸した金が果たしてきちんと返ってくるのかに大きな関心がよせられていたのです。
そこでの会計は、資産の売却価値の算定に重点がおかれ、貸借対照表も財産の一覧表というべき性格を有していました。
いわゆる静態論の考え方です。
しかし、世界的な株式市場の混乱を経て、貸借対照表の数値を不確実な指標としての時価に代え、確実な指標としての原価に置き換える動きがみられました。
そこでは収益を極めて確実な段階(実現)で計上し、費用面では、確実な指標としての原価を割り振る事(配分)に主眼がおかれ、確実さを重視した利益が算出されていました。
いわゆる動態論の登場です。
動態論のもとでの資産は、必ずしも売却価値を有する財産だけではありません。
過去の支出額(原価)の当期の損益にかかわらない部分(支出未費用)も含まれています。
動態論の中心的な課題は、確実な収益を計上し、確実な原価をのうち当期に帰属する部分との差し引きで損益計算を行うことにあったといってよいでしょう。
しかし、経済(特に金融)の国境が消え、その比重が高まるにつれ、資産を原価のまま放置する事に対する弊害は広がっていきました。
ラフにいってしまえば、「もの」よりも「かね」の占める比重が極端に大きくなったのです。
そんな中で登場したのが、資産負債アプローチと呼ばれる考え方です。
会計の全体像を考えるにあたって、まずは、資産と負債を定め、両者の差額を純資産とし、純資産の変動額を利益(包括利益)とする方式です。
世界的には、純資産の変動額としての包括利益を重視する方向に向かっているようです。
しかし、我国の概念フレームワークは、純利益を重視する道を選びました。
財産法的な利益である包括利益を業績指標としての利益である純利益に絞り込むために概念フレームワークがとったのが、リスクからの解放です。
リスクからの解放とは、投資目的どおりの期待していた成果が確定した段階で利益(収益)を認識する考え方を意味しています。
企業の目的は、投資家から委ねられた資金を事業に投下し、その資金を増加させることにあります。
そこにおける成果(最終的には資金の増加)を認識するタイミングは、投資目的に応じて判断すべきでしょう。
投資目的に見合う確定した成果を獲得した段階で利益を認識する考え方がリスクからの解放です。
成果の確定は、多くの場合には、キャッシュ・イン・フロー(現金収入)をもって確認できます。
このようなタイミングで利益を認識し、そこで認識された利益、すなわち純利益を業績評価の指標として重視する道を概念フレームワークは選んだのです。
概念フレームワークでは、このように二つの利益を併記しながらも純利益重視の道を選びました。
しかし、包括利益が純利益に代わりうる利益指標たることもまた否定してはいません。
そして、世界は、包括利益を選ぼうとしています。
なぜ、世界は包括利益を選ぼうとしているのでしょうか?
このまま損益計算書の最終値は、包括利益になるのでしょうか?
そうだとすれば、純利益の何が問題なのでしょうか?
包括利益に問題はないのでしょうか?
っていうかそもそも包括利益って何だ?(←また振り出しですか)
リスクからの解放とは何か(完)
包括利益と純利益(1)へ続く(←………線路じゃないんだから)
いてこのサイトに行き着くことが出来まし
た。
概念フレームワークについては、なんとなく
聞いておりましたが、このサイトを見て、目
から鱗でした。(といっても私が余りにも知
らなさすぎかも知れませんが)
概念フレームワークは会計の憲法ということ
で、新会計基準が作成される時には、現行制
度とのバランスをとりながら、概念フレーム
ワークに準拠したかたちでなされると思いま
すが、「固定資産の減損に係る会計基準」、
「棚卸資産の評価に係る会計基準」について
はどのような形で影響しているのでしょう
か?
宜しくお願いいたします。
いたしました。
以下に自分なりに整理をしてみました。
先に掲げました両会計基準は、「概念フレー
ムワーク」に規定されています@「財務会計
の目的」を尊重すると同時にA「会計情報の
有すべき質的特性」についても配慮している
と思います。
B資産概念についても、収益性の低下という
条件付ではありますが、回収可能額(正味売
却価額)又は回収可能価額(MAX(正味売
却価額、将来キャッシュフロー))というこ
とで、キャッシュの流入ということに関連づ
けていることから同概念であると思われま
す。
ここまで来て初めて何を質問したいのかわか
りました。(お恥ずかしい話です)
利益については、実現の概念に代わるものと
して、「投資リスクからの解放」ということ
がありますが、上記の収益性の低下による回
収可能額等への評価替(損失)についてはど
のように説明されるのでしょうか?
宜しくお願いいたします。
よろしくお願いします。
投資のリスクは、投資の不確実性・不確定性を意味しています。
要はわからない状態です。
これが確定した状態がリスクから解放された状態でしょうか。
収益性の低下は、投資額が回収できなくなった状態を意味しています。
つまり正味売却価額(回収見込額)が取得原価(投資額)を下まわ回った状態です。
投資額の回収不能が明らかになった状態が評価損部分等について、リスクから解放されたということになるのではないかと思います。
棚卸資産基準では36項にこの辺の話があるかと思います。
また、通常の売上原価については、41項に規定があります。
よろしかったらご参照ください。
とってもすっきりいたしました。
非常に、興味深く、詳細な検討がされている記事がたく
さんあって少しづつ読み進めていきたい存じます。
もう既に、記事の中にあるのかもしれませんが、今興味
がありますのは、損益計算書がどのようになっていくの
かということです。
収益費用アプローチでは、未解決項目又は残高項目とし
て誘導的に貸借対照表が作成されていたかと思うのです
が、資産負債アプローチでは逆に貸借対照表から誘導的
に資産の評価単位である資産又は資産グループ毎に、ま
たその増減の発生原因毎に誘導的に損益計算書が作成さ
れていくことになるのでしょうか。
現状では、収益費用アプローチを維持したまま、概念的
に資産負債アプローチの資産概念に基づく包括利益から
「投資リスクから解放」によって純収益に絞りこむこと
で、各資産の評価方法と評価差額の計上方法を決定して
いるのでしょうか。
一方、外国ではいきなり包括利益ということであれば
今までの損益計算書とは全く別のものになる可能性が
あるのでしょうか。
かなり乱暴な表現になっていて、専門家の方にとって
読むに耐えないものになっていましたら御免なさい。
疑問をそのまま、書いてしまいました。
とてもざっくりした話ですと、ちょっと前までの日本の制度会計はまさに収益費用アプローチということでよろしいかと思います。
世界的な流れは資産負債アプローチ「的」です。
今の日本は資産負債については、国際的な流れに合わせていますが、利益段階では収益費用アプローチの利益である純利益を重視しています。
つまりは、二本建てに近いです。
今後、どうなるかはまだ検討段階のようですが、純利益を残しつつ包括利益も表示するという可能性が高そうです。
どの程度の勉強をなさろうとしていらっしゃるのかちょっとよくわかりませんが、企業会計基準委員会のホームページに「財務諸表の表示に関する論点の整理」というのがありますので、ちょっと骨だと思いますが、かなりのご疑問は解決するのではないかと思います。よろしかったら参照してみてください(新着の7月10日にあります)。
企業会計基準委員会のホームページですか、思いもよりませんでした。
先生は専門学校等でも教えらているそうですが、これほど詳細かつ広
範な記事を書かれたサイトを運営されていらっしゃるのは、会計を愛
されているのでしょうね。
私は、このサイトの行き着いたことで、宝の山といいますか、金鉱を
掘り当ててしまった心境です。
今後ともご教授のほどお願いいたします。
かなり趣味が入っています。
実際にはそんなに詳しくないんですが、ご質問等もお答えできる範囲という限定ですが、ご協力できればと思います。
まだ、連載が始まっていないということでしょうか。それとも、私が存在を見落としてしまっているでしょうか。