資産と負債がきっちり定まれば、利益もみえてくるというのが概念フレームワークの考えでしょう。
このような定義面での構図をみると概念フレームワークは、いわば財産法的に利益を考えているといってよさそうです。
概念フレームワークで独立した(他の項目を使用しない)定義が与えられているのは、資産と負債だけです。
負債は、資産と対照的ですから、概念フレームワークで重要性を持つのは、資産でしょう。
資産は、経済的資源(将来のキャッシュの獲得に貢献する便益の源泉)とされていました。
将来の現金収入に役立つもの、それが概念フレームワークにおける資産です。
「将来の」現金収入に役立つものを「今の」時点にそろえるために必要なのが、割引(現在)価値の考え方です。
概念フレームワークでは、利益を財産法的に考え、資産(負債)をまず定義しました。
概念フレームワークで、貸借対照表項目を重視していることは間違いなさそうです。
しかし、概念フレームワークでは、貸借対照表項目を絶対視し、損益計算書項目に従属的な地位を与えているのかというとそうではありません。
いや、むしろ損益計算書における純利益を極めて重視しているのです。
ここが、概念フレームワークにおけるもっとも大きな工夫といってもよいでしょう。
しかし、とても大きな工夫だけに、それはわかりにくさも伴っているように思えます。
これまでに幾度となく登場した財産法と損益法。
純資産の変動額で利益を計算するのが財産法でした。
収益と費用の差額で利益を計算するのが損益法でした。
そして、両方式で計算された利益は一致します。
しかし、現行制度上、純資産の増が純利益となっている訳ではありません。
つまりは、両方式による利益は一致しないのです。
現行制度上、損益計算書の最終値は、当期純利益です。
この当期純利益は、当期中の純資産の増ではありません(資本取引は除外します)。
なぜなら純資産が増えても、純利益が増えない場合があるからです。
その典型が、その他有価証券の評価差額(科目は、その他有価証券評価差額金)です。
(借)投資有価証券××× (貸)その他有価証券評価差額金×××
この仕訳で、純資産が増えていることは間違いありません。
そして、これは、株主との直接的な取引(資本取引)でもありません。
つまり、資本取引以外の純資産の増であっても、必ずしも純利益に影響しない場合があるのです。
上記のようなその他有価証券の処理方法は、純資産直入法と呼ばれます。
通常の評価益等であれば、損益勘定を経由して(損益計算書に計上されて)、資本項目(繰越利益剰余金)が増えます。
現行制度上は、純資産が増えているのに直接的に純資産の部に計上する処理を行う場合があります。
このような処理が行われる限り、純資産の増は、純利益とは一致しません。
概念フレームワークでの「純利益」は、純資産の変動額ではありません。
純利益は、純資産の変動額からこの評価差額等を控除した金額になります。
純資産の変動額−評価差額等=純利益
概念フレームワークにおける純資産の増(変動額)は、「包括利益」と呼ばれます。
概念フレームワークには、二つの利益、すなわち「包括利益」と「純利益」とが並存しています。
いわば、財産法的な利益である包括利益と損益法的な利益である純利益。
この二つの利益が独立して存在するところに概念フレームワークの大きな特徴があるといってよいでしょう。
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